「海外FXで収入を得ている場合、個人事業主になれば税金は安くなるのかな?」
個人事業主になることが海外FXの税金対策につながるのか気になりますよね。
結論から申し上げると、海外FXは“事業”とみなされにくいので、個人事業主になることは大変難しいです。
そして、もし個人事業主になったとしても、何もメリットは得られません。
海外FXトレーダーが個人事業主になってもメリットがない理由 |
・青色申告の所得控除(65万円)対象外で税率は変わらない ・確定申告が煩雑化する |
個人事業主として支払う税金は、個人で支払う税金額と全く変わらないうえ、確定申告をより煩雑にするというデメリットが生じます。
節税対策のために個人事業主になることを検討しているのであれば、他の節税対策を検討するとよいでしょう。
ただし、節税対策につながると言われているものであっても、余計な手間やお金を使うことで逆に損をすることもあります。
そこで本記事では、効果のある節税対策ができるよう以下の内容をまとめました。
本記事を読んで分かること |
・海外FXで個人事業主になるメリットがない理由 ・「法人化」を検討するべき人の条件 ・タイミング・効果が見込める節税対策 |
正しく理解することで効果の見込める節税対策が分かるはずです。
初心者の方にも理解できるようまとめたので、ぜひ最後まで読んで参考にしてください。
目次
1.海外FXで個人事業主になってもメリットはない
海外FXで収入を得ているからと個人事業主になっても、何もメリットはありません。
メリットはないと断言する理由は、以下の仕組みがあるからです。
海外FXトレーダーが個人事業主になってもメリットがない理由 |
・青色申告の所得控除(65万円)対象外で税率は変わらない ・確定申告が煩雑化する |
1つずつ解説します。
1-1.青色申告の所得控除(65万円)対象外で税率は変わらない
海外FXの収入は青色申告の所得控除対象外のため、個人で支払う場合の税率と変わりはなく、税制メリットは何も得られません。
そもそも『青色申告の所得控除』とは、所得が65万円まで所得控除となる制度です。
青色申告は個人事業主の最も大きなメリットであり、個人事業主の納税で大きな節税の効果を生みます。
しかし、所得控除が適用されるのは「事業所得」が対象です。残念ながら海外FXの利益は「雑所得」に該当するため、青色申告の対象にはなりません。
事業所得 | 雑所得 |
一般的な事業によって得る所得 個人事業主が申告できる 青色申告の対象となる | 副業による収入や一時的な利益 誰でも申告できる 青色申告の対象とならない |
これは過去の判例でも明らかになっており、全国の税務署はこの判例に従って対応しています。
【海外FXの収入が事業所得と認められなかった裁決事例】
①海外FXトレーダーが海外FXの利益を事業所得として申告を行う ▼ ②海外FXは雑所得に区分されるため、税務署は所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行う ▼ ③海外FXトレーダーは事業として行った取引のため不服と主張し、処分の取り消しを申し立てる ▼ ④裁判所でも「海外FXの利益は雑所得に該当する」と判断され、本件の処分は適法であると判決が出る |
参考)国税不服審判所(平22.2.16、裁決事例集No.79)
この裁決事例を見て分かるとおり、海外FXの利益は「事業所得」として申告することはできず、「雑所得」として申告することになります。
「雑所得」である限り税制優遇を受けることはできないため、個人事業主になることのメリットはありません。
1-2.確定申告が煩雑化する
海外FXで個人事業主になると、確定申告が煩雑化してしまうというデメリットが生じます。
海外FXの収入『雑所得』と、本業の収入『事業所得』は分けて申告する必要があるからです。
損益通算(合算)して申告することは許されませんし、収入だけでなく、経費も別々に申告する必要があります。
たとえば通信費や家賃のように、両方にまたがる経費がある場合は、それぞれに一定の割合の経費を計上するため、経費計算はより煩雑になるでしょう。
「事業所得」と「雑所得」は損益の計算方法も違うためややこしく、申告漏れや過少申告などの原因にもなりかねません。
煩雑化することで手間がかかり、本来トレードできる時間も確定申告に費やさなくてはいけないことになる可能性があります。
確定申告の手間から見ても、個人事業主になることでデメリットが生じると言えます。
海外FXの確定申告に関する情報は、こちらの記事でも解説しています。 参考記事:【完全ガイド】海外FXの確定申告|申告手順と節税のコツ 海外FXの損失に確定申告は必要?海外FXの損失の扱いを徹底解説 |
2.そもそも海外FXの収入だけで個人事業主になることは難しい
海外FXトレーダーが個人事業主になるメリットが存在しないことを解説してきましたが、そもそも海外FXのトレードで得た利益だけで個人事業主になることは大変難しいです。
個人事業主として認められる要件には『対価を得て継続的に行う事業(=事業所得)であること』という事項があります。
海外FXの収入は事業と認められない『雑所得』に該当するため、海外FXの収入だけで開業届が受理されることはほぼないと考えていいでしょう。
ただ、ヒューマンエラーによって開業届が受理されることもあります。
しかし受理されたからと言って青色申告の所得控除(65万円)が適用できるわけではありません。
海外FXの収入だけで個人事業主になる手続きをしても得することはなく、余計な手間をかけるだけになると考えてよいでしょう。
3.海外FXの利益が大きいなら「法人化」の検討がおすすめ
個人事業主であることは海外FXの節税においてメリットはありませんが、海外FXの利益が大きいのであれば「法人化」は節税に有効に働く可能性があります。
法人化とは、文字通り会社を設立し、法人として海外FXの取引を行うことを指します。
法人化にもデメリットは存在しますが、以下の条件に当てはまるのであれば、法人化を検討してみてもよいでしょう。
法人化を検討すべき海外FXトレーダーの条件 |
年間所得が900万円以上ある |
今後も長期間にわたって安定した利益を継続して出し続けられる |
この章では海外FXの「法人化」について以下2つのポイントから詳しく解説していきます。
- 「個人」と「法人」の違い
- 法人化で節税できるタイミング
海外FXで法人化することでどのような節税効果が期待できるのかを解説します。
3-1.「個人」と「法人」の違い
個人と法人はどのように異なるのか、以下の比較を一覧表にまとめました。
個人事業主 | 法人 | |
税金の種類 | 所得税 | 法人税 |
所得の区分 | 「雑所得」として申告 | 「事業所得」に合算 |
所得の確定方法 | 確定申告 | 決算 |
損失繰越 | できない | 損失は9年間まで繰り越すことができる |
赤字の場合の対応 | 税金は発生せず確定申告の必要はない | 赤字でも決算の処理を行い申告する必要がある (損失繰越ができる) |
損益通算 (損益の相殺) | できない | できる |
法人化による最も大きな違いは、支払う税金が所得税から法人税になることです。
いずれも利益に対して課せられる税金ですが、処理方法が異なるため納税手続きが大きく違います。
法人としての納税処理ができるか、という視点を持って法人化を検討することも大切です。
3-2.法人化で節税できるタイミング
法人化で節税できるタイミングは、900万円以上の収益を今後も継続的に出し続けられる状況になったときです。
なぜなら、法人化するとコストの面で以下のメリット・デメリットがあるからです。
- 個人所得で900万円を超える場合、法人よりも税率が高くなる
- 法人の設立・維持には費用がかかる
というのも、個人と法人の税率を比べると、900万円の所得を超えると税率に大幅な差が生じます。
個人 | 法人 | ||
所得金額の合計 | 税率 | 年間利益 | 税率 |
195万円以下 | 5% | 800万円以下 | 約15% |
195万円を超え330万円以下 | 10% | ||
330万円を超え695万円以下 | 20% | ||
695万円を超え900万円以下 | 23% | ||
900万円を超え1,800万円以下 | 33% | 800万円超 | 約23.2% |
1,800万円を超え4,000万円以下 | 40% | ||
4,000万円超 | 45% |
参考)国税庁『所得税の税率』
財務省『法人課税に関する基本的な資料』
所得が900万円を超えた場合、個人の場合は33%以上、法人の場合は約23.2%と一定の税率です。
所得が大きいほど、法人の方が税率が低いため、節税対策になると言えるでしょう。
ただし、法人化すると以下の費用がかかります。
法人化するとかかる費用一覧 | ||
法人設立費用 | 株式会社の場合 | 20万~25万円 |
合同会社の場合 | 6万~10万円 | |
法人住民税 | 年間7万円~ | |
顧問契約(税理士) | 年間20万~30万円 |
900万円以上の利益が出ている場合は法人化で税率は低くなるメリットはありますが、個人では不要な費用が発生します。
そのため、法人化するかは慎重に考えることがおすすめです。
法人化についてのより詳しい情報はこちらの記事で解説しています。 参考記事:海外FXトレーダーの法人化は年間収益が500万を超えると検討すべき |
4.【個人全員が対象】海外FXで効果が見込める節税対策4選
海外FXの税金を少しでも抑えたいなら、個人事業主になる方法ではなく、しっかりと効果が見込める節税対策がおすすめです。
海外FXで効果が見込める節税対策 |
1.経費を計上する |
2.控除を申告する |
3.「雑所得」内の損益を合算する |
4.含み損は確定する |
節税方法について紹介します。
4-1.経費を計上する
1つ目は経費を計上する方法です。
確定申告では海外FXでの取引にかかった経費を全て経費として申請することができ、経費分を利益から差し引くことができます。
取引のための経費だと認められれば、必ず利益から差し引かれるため、節税効果は高いと言えます。
海外FX取引の費用として認められる経費は、以下のようなものがあります。
- 海外FX関連の書籍の購入費
- 海外FXのセミナーや勉強会の参加費(会場までの交通費を含む)
- パソコンや携帯電話、周辺機器などの料金や修理、メンテナンス費用
- 椅子や机などの購入資金
- 通信費
- 文房具や事務用品代金
- トレードを行う自宅の部屋の家賃や光熱費の一部
などです。
自宅家賃や光熱費に関しては、残念ながら全額が認められることはなく、一般的には15~20%であるとされています。
いくらまで経費として認められるかについては、状況によっても異なるため、最寄りの税務署に確認してみましょう。
経費として認められるには、領収書など経費を支払ったことが証明できる書類があることも条件の1つです。
また申告に利用した領収書やレシートは、最低5年間は手元に保管しておく必要があるということも押さえておくべき点です。
誤って領収書を廃棄してしまうと、万が一、後に税務調査などが入った場合に経費が却下となり、さらに追徴課税を課せられるケースもあるため、しっかりルールを守って経費計上をしましょう。
海外FXの雑所得の扱いや確定申告方法に関して、こちらの記事でより詳しく解説しています。 参考記事:海外FXで稼いだ雑所得の課税ルール|おすすめの節税対策8選 【完全ガイド】海外FXの確定申告|申告手順と節税のコツ |
4-2.控除を申告する
節税効果が見込める2つ目の対策は、控除を申告する方法です。
控除とは、一定の要件の当てはまる支出の合計金額を、課税所得から差し引くことが出来る制度です。
控除金額の合計は課税所得から全額が差し引きされるため課税所得を下げ納税額を減額する効果が期待できます。
一般的に個人が利用できる控除には以下のような種類があります。
控除の種類 | 詳細 | 必要書類 |
社会保険料控除 | ・国民年金や厚生年金、健康保険料などを支払っている場合はその全ての合計金額が控除の対象になる | ・控除証明書類(年金機構や自治体から送られてくる) |
配偶者控除 配偶者特別控除 | ・配偶者がいる場合は控除を受けることができる。ただし配偶者の収入が133万円を超えないことが条件 | ・書類の必要はなし(配偶者のマイナンバーと所得合計金額が、確定申告書作成時に必要) |
扶養控除 | ・両親や子供など、一緒に住んでいる人がいる場合に認められる ・両親などに所得がある場合は、生計が同一の場合は38万円、生計が別の場合は103万円まで控除が認められる ・両親などへの仕送りを行なっている場合も扶養控除として申告できる。一緒に住んでいる人の場合、その人の所得が38万円以下、生計が別の場合はその人の給与所得103万円以下の場合、控除が認められる | ・扶養対象となる親族が日本国内に住んでいる場合、添付書類は不要 |
住宅ローン控除 | ・10年以上の住宅ローンを組んで住宅を購入した場合に控除を受けることができる ・年末のローン残高の1%に当たる金額が所得税から控除される | ・住宅ローン年末残高証明書(住宅ローンを借りた金融機関が発行する) |
iDeCo(個人型確定拠出年金) | ・毎月の積立金が控除の対象になる | ・小規模企業共済等掛金払込証明書(国民年金基金連合会からiDeCo利用者に必ず送られてくる) |
生命保険料控除 地震保険料控除 | ・1年間に支払った全ての保険料が控除対象となる | ・保険料控除証明書(保険会社から必ず郵送されてくる) |
医療費控除 | ・1年間に自分や家族のために支払った全ての医療費の合計が10万円を超えた場合を超えた場合、控除を申請することができる | ・1年間の医療費として支払ったレシートや領収書を保管しておく必要がある |
ふるさと納税 | ・寄付額から2,000円を差し引いた金額が所得税から控除される | ・寄附金受領証明書(寄付をした自治体から送られてくる) |
控除を申請するためには、多くの場合控除の証明書を添付する必要があります。
基本的にほとんどの控除証明書は自宅に郵送されてくるため、忘れずに確定申告まで保管しておきましょう。
4-3.『雑所得』内の損益を合算する
節税効果が見込める方法の3つ目は、雑所得内の損益を合算する方法です。
「雑所得」同士の損益であれば、損益通算(合算)が可能なので、他の損失を活用して海外FXの利益を少なく申告できます。
海外FXの収入と損益通算できる「雑所得」は、以下のような所得があります。
- 仮想通貨取引や海外先物取引などの損益
- アフィリエイトやオークションなどの損益
- 印税や講師料などの副業の損益
これらの損益がある場合は海外FXの損益と損益通算(合算)して課税所得を下げましょう。
4-4.含み損は確定する
含み損を確定する方法も、節税効果に有効な方法です。
「含み損を確定する」とは、年内に含み損を確定し、年が明けたら買い戻すという方法で利益を小さくする方法です。
この方法は「損出し」とも呼ばれ、FXだけでなく株や投資信託などにも適用される一般的な節税方法として知られています。
利益を翌年に繰り越すだけですが、多くの利益が出ているのであれば減税に有効な手段と言えます。
こちらの記事では海外FXの節税についてより詳しく解説しています。 参考記事:海外FXで出来る節税方法・節税対策6選を徹底解説! |
まとめ
今回は海外FXトレーダーが個人事業主になると節税になるのか、について詳しく解説しました。
残念ながら、海外FXの収入だけで個人事業主になるメリットは存在しません。
海外FXトレーダーが個人事業主になってもメリットがない理由 |
・青色申告の所得控除(65万円)対象外で税率は変わらない ・確定申告が煩雑化する |
海外FXの税金を安くする方法として有効なのは個人事業主ではなく「法人化」です。
ただし、法人化すると法人ならではコストがかかるため、慎重に検討することをおすすめします。
海外FXトレーダーに有効な節税方法は以下の4つです。
海外FXで効果が見込める節税対策 |
1.経費を計上する |
2.控除を申告する |
3.「雑所得」内の損益を合算する |
4.含み損は確定する |
これらの節税対策は、法人化しなくても効果が見込めるので、手元の資産を多く残したい場合は行いましょう。
ぜひ参考にして資産形成にご活用ください。
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